赤ちゃんは目が見えるようになってくると、のぞきこむ母親(父親)の顔を見つめ返します。やがて、今度は親が見つめるもの(環境)へと視線を移すようになるのですが、これを「共同注意」と言います。つまり、赤ちゃんは親そのものから「親が興味のあるもの」へと興味の対象を移すようになるのです。
また、親が何かに対して感じる怒り、嬉しいときの笑い といった表情は伝播するため赤ちゃんはそれを真似してパターンを認識するようになります。そうして親との信頼関係をベースに赤ちゃんの感情は増え、興味を持つ世界は広がっていきます。小さいうちからできるだけポジティブな感情、興味が広がるさまざまな世界に目を向けさせたいものです。
子どもはぬいぐるみや人形に話しかけ、誰かのふりをして「ごっこ遊び」をする中で、知らず知らずのうちに社会を知っていきます。やがてきょうだいや友だちといった他者と一緒にヒーローごっこやままごとをすることで役割を演じ、関係性を作り出していきます。例えばヒーロー役が悪者役をやっつける動きをすると、悪者役はやられたふりをして倒れて見せます。これは相手の意図や期待を理解しているからこそ成り立つ遊びなのですが、「ミラー(鏡)ニューロン」という、共感するときに働く神経細胞がこの行動をおこしているのです。映画を見ているときにまるで自分が主人公になったように感情移入したり、悲しいドラマで感極まって泣いてしまったり、他人のことでも自分の経験のようにリアルに共感してしまうのも、このミラーニューロンという脳の働きによるものです。
このミラーニューロンは霊長類に特有で、しかも使わないと育まれていきません。育むために効果的な手段は「コニュニケーション」であり、その最たるものは「会話」です。
パソコン・携帯メールの普及で、子どもたちが直接対話によって関係性を築く場面が減っています。即効的な情報伝達には役立つメールですが、それに依存しすぎると共感する心の発達を妨げることになってしまいます。
なぜなら、相手と向き合って言葉を交わし、その表情やしぐさから気持ちを理解して、それに適した言葉や対応を考えることがコミュニケーションであり、本来そうして信頼関係は築かれるからです。
メールは単なる記号でしかなく、メールでのやりとりは本当の「会話」ではないことを子どもたちにしっかり伝えることが重要です。
子どもたちが大好きなゲームはますますリアリティを増し、バーチャルな世界を作り出しています。しかし、あまりにリアルな映像はそれだけで完成されており、子どもたちの想像力が入り込む隙間はありません。
一方、道具らしい道具を必要としない砂場、それ自体には意味がないブロックや積み木は、それらを「何かに見立てて」空想することで遊びが広がります。そこら辺に落ちている布を布としか感じられなければそこから遊びは生まれないのですが、布をボールに見立てたり、木の枝に巻き付けてバットや剣にしたりと工夫することで、創造性は無限にふくらみます。そうして養われた創造力は、大人になってからの問題解決能力へと発展します。何か予想外の問題が起こったときでも違う角度から考えてみたり、発想を転換して課題を克服したり、対応力が鍛えられるからです。
直接対話を基本としてコミュニケーション能力を育み信頼関係を築くこと、またシンプルな道具によって創造性を引き出し脳の発達を促すこと それらが子どもたちの成長に欠かせないことを大人は認識する必要があるでしょう。