森岡 周先生
※プロフィール
学校法人 冬木学園 畿央大学 健康科学部理学療法学科教授
大学院健康科学研究科主任 博士(医学)
http://blog.goo.ne.jp/sssrm4
24時間営業のファミリーレストランやコンビニ、バラエティなどの深夜番組。子どもたちにとって「夜の居場所」はたくさんあります。また、午後9時以降に子どもを連れ出す親もめずらしくなく、「夜更かしは体によくない」という概念は大人の中でも薄れてしまっています。こうした中では親が自覚を持って早く寝かせる環境を積極的に用意しないと、子どもたちの健全な睡眠・覚醒のリズムを作ることができません。
参考グラフ:10時以降に就寝する児の率
日本小児保健協会がまとめた「2000年度幼児健康度調査」より
(調査対象:全国の満1歳〜小学校就学前の7歳未満の幼児6,875人)
子供の年令 | 昭和55年 | 平成2年 | 平成12年 |
1歳6ヶ月 | 25% | 38% | 55% |
2歳児 | 29% | 41% | 59% |
3歳児 | 22% | 36% | 52% |
4歳児 | 13% | 23% | 39% |
5-6歳児 | 10% | 17% | 40% |
子どもの成長に欠かせない「成長ホルモン」は骨や筋肉を成長させる大切な役割を持っており、深い眠り(ノンレム睡眠)のときに多く分泌されます。それには十分な睡眠時間(8〜10時間)が必要なのですが、例えたっぷり眠ったとしても、夜遅くまで起きていたのでは生体リズムが狂ってしまい、午前中ぼーっとしてしまうことも。十分な睡眠時間プラス早寝早起きの規則正しい習慣が大切なのです。
生体リズムを調整し、ガンや老化を防止する抗酸化作用がある「メラトニン」というホルモンは1〜5歳児に一番多く分泌されます。特に起床してから14〜16時間後がピークで、しかも暗い環境でないと分泌されません。この時間帯は部屋を暗くしてぐっすり眠った状態にしておくことが大切です。
また、覚醒時の活動パワーを蓄積する「副腎皮質ホルモン」も寝ている間に分泌されますので、睡眠が足りていないことや遅くまで起きていることで生体リズム・自律神経のバランスが崩れていたら、元気が出ないばかりか自己免疫力が低下してしまいます。
もちろん、成長ホルモンは乳幼児だけでなく小・中学生になっても分泌されますから「早寝早起き」の習慣はまだまだ必要。塾通いで生活サイクルが遅くなる年齢ではありますが、意識をするのとしないのとでは随分変わってきます。塾から帰ったあとは少しでも早く眠りにつけるように親もTVのスイッチを切ったり、あるいはアロマや明かりでリラックスできるような空間を寝室に作ったり、ちょっとした工夫が効果的。早朝に勉強をするように生活時間を切り替えるのもいいかもしれません。親子でいろいろな方法を話し合ってみてはどうでしょうか。
例え同じ照度(明るさ)であったとしても、昼間の太陽の自然光は夜のネオンやTV、家の中の電灯とは違うということを脳は認識します。人工的な光は変化がないのに比べ、日光は刻一刻と変化するもの。それを五感すべてで感じとるといった経験を通して、子どもたちの体は成長するのです。
日光という昼間の自然を感じることで多様な変化に適応する力が養われ、それによって体と脳が発達するのも、私たち「人」が本来昼行性の動物だから。それに反する「夜型の生活」は生体にとって不自然なことなのです。
昼間に記憶したことは、実は一時的なものでしかありません。覚醒時の記憶は眠っている間に脳に定着するのですが、それには神経伝達物質の「セロトニン」が大きく関わっています。 起きている間は、「記憶をする」という「実行」の方に脳は忙しく働いています。そして「実行」にパワーを注がなくていいとき、つまり眠っているときにようやく、入力された断片的な記憶という情報をつなぎ合わせる作業を行っているのです。
つまり十分な睡眠がないとこの「一時的な記憶を長期的な記憶として脳に固定する」作業ができなくなってしまうのですが、「セロトニン」がその一つとして関係していると考えられています。 また、「セロトニン」は朝起きた直後に分泌が活発になりますので、午前中の活動やひらめきに大きな影響を与えると考えられています。早寝早起きをして「セロトニン」のサポートを受ければ午前中から脳は一気に活動を全開し、豊かな発想が生まれる確立が高いと言えるでしょう。