茶道裏千家 教授。9歳から父に茶道を習い、1983年に裏千家学園茶道専門学校を卒業。卒業後は実家にて父の茶華道教室を手伝う。1996年に茶事の一環として、懐石料理・和菓子教室を始め好評を博す。
1998年 調理師免許を取得後、和菓子と料理の教室「さろん閑遊」を開く。1999年、茶道裏千家 教授に。2002年からは東京でも和菓子教室を開き、現在は「キャンセル待ち」状態が続くほどの人気教室となっている。話が楽しいお茶の先生として老若男女から慕われている。
「さろん閑遊」http://www.kanyuu.com/index.html
「茶道」と聞くと敷居が高く、欧米化されたライフスタイルが主流になっている今の住環境では畳がない家も多いため日常とはかけ離れた別世界のものと感じる、という声をよく聞きます。
確かにその歴史は古く、栄西禅師が抹茶を伝えたのは鎌倉時代にまでさかのぼります。
千利休が広めた茶道の精神は奥が深く、その基本を短期間で習得することは難しいかもしれません。ですが、実はこれほど生活に密着したお稽古ごとはないのです。それは茶室で点てたお茶をいただくことだけが茶道ではないからです。
正式な茶事は一汁三菜の懐石料理をお客様に供することから始まり、その後にお茶を点てるのですが、旬の食材を使った健康的で多彩な料理は決して特別なものではなく、日常の食卓に取り入れたくなるような素朴で美味しいものばかり。お茶に添えられたお菓子は見た目も色鮮やかでかわいらしく、季節をふんだんに取り入れた親しみやすい味です。
お点前は複雑で難しそうに見えるかもしれませんが、その決まり事は非常に合理的で無駄な動きがないもの。実はとても計算された流れがあることを知れば、ひとつひとつの動作に意味を見いだせるので、すんなりと身につくものなのです。基礎としての決まった形の習得が美味しいお茶につながることは、お稽古を始めるとすぐにわかるでしょう。
また何よりも大切なのは、単に手順を覚えることではなく「おもてなし」の心を理解すること。お客様を迎えるために亭主は茶器や掛け物、お花など、その空間すべてを演出します。もてなされる側もその気持ちをくみ取って周りにある品々に興味を持ち、美しいと感じたままに自分の言葉で伝えます。そこで生まれる会話や心づかいなど、コミュニケーションを楽しむことが茶道の本質。単にお茶をいただくだけではないというのはそういうことなのです。
「エレベーターで自然に『どうぞお先に』と声をかけるようになった」
「来客へのお茶の出し方が変わったと上司にほめられた」
「懐石料理のお店に行った時に、掛け軸や器に目がいくようになった」
――生徒さんからよく聞く話です。正しいお辞儀や挨拶のしかた、ふすまの開け方なども基本として身につく茶道。衣食住に深い関わりがあるからこそ、日常のちょっとした場面でその所作や身のこなしがあらわれるのです。
また、お茶菓子ひとつとってもその味の表現は幾通りもあります。大きさややわらかさをあらわすのに経験を積んだ人が使う言葉とは?日本語ほど形容詞の豊富な言語はないですから、とても勉強になるでしょう。「子どもの語彙が少ない」なんて嘆いているお母さん、お茶会から帰ってお手本を見せてあげてはいかがでしょうか?
初めて会った人ともお茶を囲んで楽しい時を過ごせるようになり、普段から美術品やインテリア、草花にも目がいくようになる・・・周りにある物や日常生活そのものを深く味わう心を持つことが、大人の女性としての自信につながるはずです。